診療所の経営・相続Q&A「家族信託による財産管理」
Q:将来は介護付有料老人ホームに入居するつもりで資金も準備してきたのですが、ふと思ったのが、自分が認知症になってしまったら、家族はその資金を引き出せなくなるのではないか。迷惑をかけないためにも準備を整えておきたいのですが、どうすればいいでしょうか。
A:家族内で信託の契約を結ぶことで、本人以外でも財産の管理ができるようになります。
財産を信頼できる人や会社に預けて、代わりに管理してもらえる仕組み
最近はテレビでも「家族信託」についての特集を見かけるようになりました。
まず、信託というのは読んで字のごとく、信じて託すという意味です。財産を信頼できる人や会社に預けて、代わりに管理してもらえる仕組みです。
「家族信託」とは、財産の管理運用を「家族間で完結することができる方法」です。
あらかじめ契約書に書いておけば、比較的自由に決め事ができます。
一番ポピュラーなのは、認知症になった時に困らないように、家族に財産を預けて管理をしてもらう信託です。
元気なうちに、家族内で信託の契約を結び、代わりに管理できるようにしておく
一般的には、ご本人が所有する不動産や財産については、本人が契約などきちんと締結できる状態にないと、売却や賃貸契約、銀行の手続きができません。
かつては、ご家族が代理で銀行の手続きをすることもできたのですが、近年では、本人の意思が確認できないと、たとえご家族だとしても、入金・出金したり、振込したりができなくなります。
さらに、本人が認知症と診断されると、銀行は口座を凍結してしまうこともあります。口座を凍結されてしまうと、そのお金は使えなくなってしまいます。
ですから、本人の意思で契約ができる元気なうちに、家族内で信託の契約を結び、代わりに管理できるようにしておくのです。
具体的には、ご本人の財産を「息子が預かっている財産」という名義にします。それにより、息子さんがご本人に代わってその財産にかかわる契約が可能になるのです。
名義は息子さんですが、預かっているだけなので、贈与税や不動産取得税はかかりません。(不動産の場合は、手数料として名義変更による登録免許税がかかります)
遺言書のように細やかな指定が可能
信託においてはその他にも、
「子供にお金を残したいけど、無駄遣いしそうだから、第三者の管理のもとで少しずつ渡していく」
「障がいのある子供のこれからの生活のためのお金を親族が管理する」
「分散した株式を確実に後継者に相続してもらう」
「財産を、社会貢献のために託したい」
など、亡くなった時には誰に何を渡すといった、遺言書のようなに細やかな指定が可能になります。
信託は「とりあえず預金を預けておこう」といった単純なものから「委託者本人の希望を叶えるためのオーダーメイドな複雑なもの」まで、色々と自由に作ることができます。
しかし前述したように、認知症になってからでは作れません。元気なうちに前もって準備しておく必要があります。
「すでに老後の計画ができている」「万が一の時、家族が困らないようにしたい」「誰に任せるのか明確にしておきたい」…このようにお考えの先生には、信託の活用をおすすめします。
(2019年10月10日 トータルソリューション事業部 主任 水野知子)
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